コミュニケーションに悩む機会は、少なくないと思います。

自分の考えに妥協して相手に合わせること、自分の考えを一方的に主張して相手に無理矢理に受け入れてもらうこと・・・そんな風にコミュニケーションを諦めてしまう方が楽だなと思うことも日常であったりします。

異なる背景の人同士、理解し合い、協働し合えるように、コミュニケーションを行っていくのには何ができるのか迷い、悩みます。

今回お話を伺ったのは、NPO法人WELgee(ウェルジー)。
日本に逃れてきた難民の方とともに未来を築くべく、難民に特化した人材紹介サービスや企業向け研修などの事業を行われています。

「研修や講演の案件も多くいただいていたり、人材紹介のマッチングも伸びていたりと、周りからも順調に見えていたかもしれません」

設立から5年以上が経過し、活動の成果も出てきていた。広報の林さんは話します。


そのような中で訪れた2020年。WELgeeは変化を迫られることになります。

「いろんな要因があったんですけど・・」

それを物語るかのように、WELgeeのHPには次のような文言が書かれています。

”2020年は非常に厳しい年になりました。収益の大幅減少、WELgeeの中核を担う職員の卒業、代表の産休・・”

世界的にも多くの変化が迫られた中、WELgeeにも様々な変化が訪れたといいます。そして、それらは厳しい局面も生んでいったのだと感じられます。一方で、HPにはこのような文言も書かれています。

”これらの危機は私たちをより強くしました。”

林さん自身も、2020年のWELgeeを振り返り、
「働き方、組織課題について見返す機会にもなった」と話されます。

この「危機」と、「強くなったこと」それらの間をつないだものは何だったのでしょうか?
そのひとつが対話だったといいます。

「コミュニケーションを、諦めない」

その姿勢を貫くWELgeeが行ってきた、対話の経緯と過程に迫りました。 


コミュニケーションから話す


2020年の始め。
WELgeeでは、ビジョンや組織のことを話す場を設けていました。

元々、WELgeeは対話を大切にしています。

「パートナーの難民の人たちに対しても、生まれた境遇だったりとか、言語とか価値観とか違う中で、その人の見てる世界観とか価値観とかを共有しながら、一緒に何かをつくるというところからやっています」

時には、落ち込んだ時に話を聞いたりなどアサーティブなコミュニケーションをしている、と話されます。

「それが組織の内部に対して、できていないと思うこともあり…」

「組織のコミュニケーションを見直すきっかけとなった出来事は、2020年3月より代表が組織の活動から離脱してしまったことです。意思決定の重圧など様々な要因があったのですが、当時はなぜそのようなことが起きていたかわからなかったのです。」

そういった経緯もあり始まった話し合い。職員6人それぞれの視点で話したい課題を考えて持ち寄ります。

そこで集まった課題は200個にも及んだといいます。そこから更にしぼっていきました。

「課題同士の関係性を見つけて、優先順位をつけていって、最終的に20個ぐらいの課題に絞ったんです」

その絞られた課題を見て、WELgeeとして、まず注力して話し合うテーマを「コミュニケーション」にすることにします。

「コミュニケーションから話すと意思決定の話につながる。意思決定の話につながると個人と事業の線引きになるなと思ったんです」

元々、WELgeeでは意思決定や個人と事業の線引きについての課題があったといいます。

「組織と個人のミッションの結びつきが強く大事にする故に、その人のパッションに責任や期待をのせてしまうことがあったんです」

WELgeeではトップダウンの形式はとっていない。いわゆる分散型で、それぞれがリーダーシップとオーナーシップを持ちながら活動している。そのため、WELgeeの組織や事業の考えよりも、個人のやりたいを尊重することが多かったといいます。

その結果、意思決定の流れや基準について分からない状態になっていたのです。

「その人のやりたいことでしょということで、頼る船がないというか、意思決定もその人が行っていて…トップダウンではないけれど、誰にどの権限があるか分からなくなっていました」

どこまでその人達の納得感を得らればいいのかが分からない。意思決定の流れがわからない。個々人のやりたいことを大事にするからこそ起きていると振り返ります。

「本来は組織がやる事業だから、と考えていくところだと思います。ただWELgeeでは個人のやりたいことが事業と直結していることが多くなっています。そのため、個人に責任が紐付き、自己責任になってしまったり、主体性が求められ過ぎてしまうことが起きていました」

そのような経緯があり、より根本の課題であるコミュニケーションに焦点をしぼったといいます。


小人が悪さをしている


話し合いを進めていった過程で、それらコミュニケーション上の課題は、職員同士のコミュニケーションスタイルの違いから起きていることに気がつきます。

「各々が二十何年間以上生きてきた中で培ったものがあって、それらが悪さをしていると思ったのです」

コミュニケーションスタイルについて、各々が固有の人生経験の中で培ってきた傾向や特性ある。それらを小人と呼んでいたといいます。

「僕の場合、政治家的な小人がいます。周りから求められているような耳ざわりの良いことを、上っ面で言うものの、実際は本心ではないみたいなことがあります」

コミュニケーションの中で各々の小人が共鳴し、発話者の言動が、本来意図していないように受け取られてしまう。その結果、不和が起こってしまっているのです。

「たとえば、ある人はask(コミュニケーションを行う際に、相手に対して自分の要望を伝える傾向が強いこと)の傾向がある、ある人はavoid(コミュニケーションを行う際に、相手に対して自分の要望を伝えることを避ける傾向が強いこと)の傾向がある。ask傾向のある人は受け流されている感じがして、avoid傾向のある人はめんどくさいと感じてしまいます」

職員同士の会話の中でよく陥りがちなコミュニケーションのつまづきがあり、それらはそれぞれの小人同士が悪さをしているからだと話します。


コミュニケーションパターンのポートフォリオ


ここまでの話し合いで、組織の課題が、コミュニケーションスタイルの違いから起きていることがわかりました。

次に、それらの課題をどのように解決していくかについて話が進んでいきます。

「これまでのコミュニケーションの中で、自分たちが陥るコミュニケーションパターンが明らかになりました。次にそのパターンのポートフォリオをつくりました」

傾向毎にひそむ小人を見つけ出し共有しあう。そうすることで、このシチュエーションが起きた時に次回はこうしようと考えられるといいます。

「あくまでも、職員の中の小人同士、コミュニケーションスタイル同士が対立していると考える。その上で、コミュニケーションスタイルを共有し合うことで、職員間でぶつかるパターンが明らかになっていったのです」


ストレートに物事を言うように


そうした話し合いの結果も出てきているといいます。

「ある意味すごくストレートに物事を言うようになりました」

元々それぞれのメンバーが思いやりを持っていて、相手を傷付けまいと思い過ぎてこじれたりすることもあったといいます。

しかし、話し合いを経て、ストレートに言い合えるようになったのです。

「この人本当にそれ向いているの?とか、自分正直これ苦手なんだよね、そういった会話ができるようになっていきました」

積み重ねてきた経験からの小人はまだ強いものの、コミュニケーションによるこじれは減ってきたといいます。

「これまでは個々の意見を過度に尊重するが故にこじれるみたいなところがありました。ただ、今は話し合いのスピードは前より早くなりました」

よりストレートにコミュニケーションが取れるようになってきた状態。その先に、WELgeeが目指している組織の形があります。

「私たちが目指しているのが、弱さを見せられる組織です」

組織の中のコミュニケーションの多くは、自分の弱さや、自分を守るための行動だというのが組織論の中であるのだとか。だからこそ、心理的安全性が必要だといいます。

「心理的安全性を作ったりとか、組織としても、個人としても、能力を磨くことで、弱さを見せ合える組織をつくることを目指しています」


継続して感情共有の場を


WELgeeでは対話を経て、今でも継続して感情共有をする場を週1回設けているといいます。

「それぞれが5分ぐらい、その時感じているモヤモヤや感情を喋り続ける。その後、他のメンバーが思ったことをフィードバックや質問をします」

キャリアのこと、成長実感のこと、達成感のこと・・・出てくる話は様々に及びます。その際、大切にしているのが話し合いの場の設定を共有すること。

「議論とか意思決定をする場ではなくて、感情共有をするための場であることを強調しています」

一年ぐらいかけてきた話し合いは、こういう形で引き継がれている、林さんはそう話します。


伴走していく


2020年を経て、組織としてより強くなったWELgee。

最後に、これからのことを伺いました。

「WELgeeの掲げているビジョンは、自らの境遇にかかわらず共に未来を築ける社会です。境遇にかかわらずと言う部分で、生まれた国とか人種とかに囚われているのが難民の課題。自分がコントロールできない状況から逃れざるを得ない、第二の人生や状況を築けない、そんな状況をこれからも解決したいと考えています」

逃れてきた難民の方の背景も、祖国で選挙の大事さを伝えるために政治活動をしていたり、少数民族の若者のために雇用を生み出したりなど様々です。

「その人たちをエンパワーメントしたい。助ける側というより、社会を一緒につくっていくということをWELgeeはしたいです」

そのためにボトルネックになっているのが先の見えない未来。

というのも、難民として逃れて来た彼らの唯一の希望は、難民として認定を受けること。難民認定を受けると、受け入れ国の国民に準する権利を保障されるようになります。

しかし、日本の難民認定率は0.4%程度と他国と比較しても非常に低いのです。

「その難民認定を、6ヶ月間の在留資格を更新し続けて待つ状況です」

林さんは話します。

その状況を変えるための手法が、WELgeeが注力しているJobCopass(ジョブコーパス)。JobCopassとは母国での紛争や迫害等から日本に逃れてき人材を対象に行う人材紹介サービスのこと。

難民認定ではなく、人材として、ホワイトカラーとして、安定した専門的・技術的分野の在留資格に切り替える試みです。

また、ただの人材紹介サービスではなく、彼らの持つユニークな能力と経験を活かしつつ、企業のダイバーシティ・グローバル化の推進に貢献することを掲げているのです。

これらを実現するために「育成・採用・定着」3つの一貫した伴走をWELgeeでは行っています。


そして、この伴走は、NPOだからこそできるのだと林さんは話します。

「マッチングした時点でフィーが発生するビジネスモデルなので、育成から定着までの長い伴走を前提とするJobCopassのようなモデルを、普通の企業では行いにくいと思います」

一方で、WELgeeがその後の育成や定着まで行うのには理由があります。

「受け入れてくれる社員さんと、企業の社長さんの目線が違うため、現場で馴染むのに時間かかることがあります。このようなコミュニケーションの不和を防げれば良いなと思っています」

その際、WELgeeが大切にしているのが、第三者視点。

「企業さんと人材との課題のファシリテーションを、第三者視点で間に入って行うのが大事だと考えています」

WELgeeが伴走することの多いアフリカ系の人たちはハイコンテクストなカルチャーで、思っていることを言わないことが多いといいます。それは日本人と近しい部分があります。

「ハイコンテクスト同士の日本とアフリカの人では言いたいけれど言えないことがあります。だからこそ、第三者視点で見る、定着伴走が大事だと考えています」


あとがき

2021年5月、僕はWELgeeの開催されたイベントに参加させていただいていました。サポーター向けのそのイベントでは、WELgeeの今までの歩みや、これからの決意などが、各々の言葉で話されていました。

そこで一番感じたことが、「コミュニケーションを諦めない」姿勢でした。

それは、今回お話しいただいたような組織内のことも、またパートナーの人材に対しても、そして、社会に対しても、同様に貫いてきたのではないか。

そして、これからも変わらずに大切にし続けるのだろうと勝手ながら感じています。

(れい)