「学校」と聞いて抱く思い出は、きっと人の数だけあるでしょう。

部活、文化祭、体育祭、委員会、受験・・・分類は同じでも、その中身は異なってくるかもしれません。

一方で、思い出は異なるものの、学校と聞いて、想起するイメージは似てくるかもしれません。硬い椅子や机、少し古めな校舎、校庭、先生と生徒の声・・

なんとなく変わらない、変わりにくいイメージを抱かれるかもしれない「学校」ですが、実は今、大きな変換点を迎えようとしています。

そんな大袈裟な・・・と思われるかもしれませんが、これからの2・3年は特に大切な年になってくるでしょう。

この変わろうとしている教育現場を、より良い方向にしていこうと、動いている人たちがいます。今回は、そのような方々のお話です。


「第二創業期」

イマココの活動をそのように表現されたのは、一般社団法人Fora代表理事の藤村さん。一般社団法人Foraは、教育分野で事業を行われている団体です。

教育といっても対象や方法はいろいろ。様々な団体が、様々なフィールドで活動をされています。

その中で、Foraが主に取り組んでいるのは、国の政策立案でもなく、教育委員会などの教育行政やマネジメントでもなく、学校に対しての教育です。

「18歳で高校を卒業した生徒が、生涯にわたって学び続ける意欲と能力を育むことが大切だと思っており、それを教育理念に掲げて学校教育と関わっています」

Foraの目指している理念について藤村さんは話します。その学校教育の中で、Foraが特に力を入れているのが「探究学習」です。

「探究学習を学校教育で実現しようと思えば、教育目標の策定、2年間で140時間のカリキュラム、授業の検討、教材作成、教育評価方法から教員等の研修などトータルの総合力が重要です。Foraはそこの支援をずっと行っています」

一般社団法人Fora代表理事 藤村さん

高校を卒業して少し時間が経過している方にとって、「探究学習」は少し耳慣れない言葉かもしれません。

探究学習とは、2022年から全国の学校でスタートする、総合的な探究の時間を指します。これは今まで行ってきていた総合的な学習の時間に変わるもの。

探究学習に馴染みは無くても、総合的な学習の時間は聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。

「社会が変われば会社も変わるように、教育もまた国の方針で2022年から変わります。それは一方的に知識正解をインプットするのではなく、活用するだけでもなく、自ら問いを立て自らそれを考える人を育てるというものです」

探究学習が導入された背景を藤村さんはこのように話します。

そして、この社会の教育現場の動きはForaの目指している、考えている方向性とも重なる、まさに追い風となる部分だったのです。


一回の授業のもどかしさ

Foraが探究学習に注力をし始めたのは、ここ2・3年。2016年に団体が設立されて以降、高校生向けに教育を行ってきたことは変わらない。一方でその関わり方は少しずつ異なってきています。

元々、ForaはNPO法人ISLの大学生部がきっかけとなりスタートしています。ISLは、リーダーシップ教育などを通して、日本の次世代リーダー輩出を目的に活動されているNPO法人。その事業のひとつに7days プログラムというものがありました。

7daysプログラムは大学入学前の新大学1年生を対象に行う、7日間の合宿型の研修プログラム。
この7daysプログラムを実施した際、ある企業の方より、この場を全国の教育現場に届けようと、協働のお話を頂きます。

藤村さん自身も、教育に関心があり、株式会社アクティブラーニング、NPO法人ISLでインターンをされていました。

このような経緯も重なり、学校向けに新しく活動を行うために、2016年4月に一般社団法人としてForaが立ち上がり、藤村さんが代表理事に就任されたのです。

活動開始間もない頃のForaの授業

Foraが設立以降、継続して行っている事業が「キャリアゼミ」です。

キャリアゼミとは、大学生が高校に行き、進路やキャリアについて考える出張授業。ワークショップ型の授業で、楽しみながら進路について考えることができるのが特徴です。

このキャリアゼミを、試行錯誤を行いながらも設立から1年間で約30 校、 9,300名に届けることができたといいます。


実施校数、生徒数の数字だけを見ると順調なスタートにも思えます。

しかし、そこには葛藤もありました。

「キャリアゼミの授業ができるのは基本的には年に1回。その1回のインパクトを高めたり、1回の取り組みを全国に広めること自体はとても良い活動です。ただ、本当に進路を考えていくためには、学校文化や授業後のフォローアップも大切になってくると思ったのです」

一回の授業は大切。ただ、一回だけの授業の場合、どうしてもイベントのようになってしまう面もある。継続的に伴走することのできないもどかしさがあると話します。

「一回のキャリアゼミを行って、もし生徒が意欲を持って前に取り組んでいこうと思った時に、それをサポートする能力をどのように身につけることができるのか、学び合いが生まれるような状態をどのようにつくれるのか考えていました」

そのような葛藤を重ねる間で、一年間通年で関わる選択肢、つまり探究学習が選択肢として入ってきたのです。


学校と深く関わることを良しとする


一般的に探究学習は、カリキュラムをつくり、教材を選定して、実際に授業をして最後に評価するというステップを踏みます。これらの各ステップがサイクルとして回っていきます。

各ステップについて、高校現場は対応が求められていますが、まだまだ十分にできている状況ではない。

そういった状況もあり、様々な団体が支援を行っているものの、それぞれのステップで十分なサポートがあるわけではなく、偏りがあるのだといいます。

「教材をつくったり、評価部分を行う団体は多いものの、実際に授業を行う部分、目標を立てる部分は多くはなかったりします。あっても講演で一回行くなどで、TAの派遣などは多くはないです」

目標設定や授業などは、求められている部分ではあるものの、工数がかかったりなどで、実現が難しい分野なのです。 


では、Foraの探究学習はどうなのでしょう。

Foraでは、実際の授業や目標設定部分を大切にしているといいます。

「Foraの場合、学校と深く関わることを良しとしています。たとえば教育の目標設定などを突き詰めると、学校自体、教員の研修の問題にも直面します。評価基準をいかに日々の指導にまで結びつけるか考えないとワークしない。そこまで考えて行う取り組みはあまりないのではないかと思います」

学校自体に関しては、このようにワンストップでの支援を行う。

また、生徒一人一人に対しては、学び続ける意欲と能力を育むのが大切だとしています。

「生涯学習の時代に自分から学んでいくのが大切だと思います。一方で、自分から学びたいと思った時にやり方が分からないとできません。だから、意欲と能力の両軸が必要だなと」


ただ、一般的に、必要とされているものは、能力によっているのではないか、藤村さんは感じています。

「世間的に能力に偏るのが多いなと思うんです。どうやったら良い、こういう考えが必要など。一方で、Foraは能力に加えて、学び続ける意欲を育むのがやりたい部分です」

意欲の能力を高めること、それをFora具体的に、学年毎にステップを踏んで行う。

「一年生で意欲を育む、解きたい問いを語れるようになる。二年生でそれを解くためのリテラシーを学んでいく流れです」

一方で、全生徒が解きたい問いをすぐに見つけられるわけではありません。

ここで大事になる考えが「仮決め」です。

「一年生でいきなり解きたい問いは見つからないと思うんです。大事なのは、有るか無いかではなくて、これだったら20%ぐらいは興味あるかもといったテーマを探すことだと考えています。それを調べた結果、25%になったみたいに積み上げるのは難しいことではいと思っていて、興味があることを仮決め、調べてみて、という小さい探究を年3回まわそうとしています」

年3回という回数にも理由があります。

「わかったことと、わからなかったこと整理して、新たに見つかったことや、面白いと思った箇所、探究したいと思った箇所を発表する。発表するとフィードバックが返ってくるし他の人の発表を聞いて刺激を受ける。こうして、小さいサイクルを回して考えていくのが大切だと思っています。1回で劇的に変わることはないにしても、1年生の時より3年生の時の方がいろんなことが見えてくることが多いなと。」

3年間で仮に嫌々ながらだったとしても様々な世界をみた、そういう経験が大事だと藤村さんは話します。

そのため、Foraでは探究のテーマは自由に設定して良しとしている。

一方で、自由としても、テーマ設定で書くのに心理的ハードルが高いものもある。そこで、教員や学校の文化づくりも大切になる。

「そのための教員ファシリテーションが必要で、文化が大切で、相手が出したものに、『いいね』って言うのが大切です。肯定的な文化をどうつくっていくのが、教員に求められていると思います」

Foraが学校と深く関わることで、このような目標や授業自体を深くサポートできる。

それは教員や生徒側にとっても貴重なことなのだろう。


学校経営がキーワードに

各校が探究学習に力を加えることは、学校自体の魅力化にもつながります。

そもそも、学校独自の魅力を出していくという観点も探究学習には込められていると藤村さんは話します。

「どの学校も同じ水準というのは最低限必要ですが、金太郎飴のように同じでいいかと言えばそうではなくて、各学校独自の想いを持ってやって欲しい、というのが総合的探究の時間という時間に込められた想い。探究学習を通して、それぞれの学校が学校魅力化をしてほしい学校経営をして欲しいという文脈で総合学習が位置付けられています」

それは、単に一年間カリキュラムを行うだけに止まらない。

「自分たちの評価軸や教育目標をどうするかとか、場合によってはそれを達成するための研修をやりましょうとか、自分たちの目指す学校像づくりという観点で、生徒だけではなくて学校自体をどのようにしてより良くしてくか考えていくことにつながっていくと思います」

2020年のキーワードは学校経営だと藤村さんは話します。

「管理職が名誉職になるともったいない。経営者として学校を経営していく、つまり学校ビジョンを示して教員をひっぱっていきながら特色をつくる動きが必要になってくるのではないかと考えています」

実際に、高等教育の文脈でも校長先生が有名な高校が取り上げられているといいます。

そのような有名な校長も何か特別な制度や環境を変えたわけではないという。

「有名な学校長さんも、特別に法律を変えてやったかというとそうではなくて、校長先生の裁量の範囲内でやれることをやっているだけなんです。言い方を変えると、校長先生にも権限が委譲されている。制度的な環境は実は整っているんです」

ハードはあるけれどソフトがない。この状況で、Foraの果たしていく役割はきっと大きなものになるでしょう。


各都道府県に一校ずつ授業を届ける


探究学習導入に向けて、ますます進んでいく2021年以降。今後Foraが考えていること、行いたいことを聞きました。

「全部の学校でForaの探究学習を行うことは難しいと思います、まずは、Foraと一緒に取り組んでいく高校を各都道府県に1校ずつ増やしていきたいです」

各都道府県に1校ずつ。これには理由があります。

「各都道府県に1校ずつあると、見学に来れます。Foraの探究を良いと思ってもらいたいけれど、あくまで一つのモデル。他の探究があって良いと思いますし、実際にあります。もし、一人一人が問いを持って探究行う授業をしたいと思った時に、隣の県まで行かないと見れない、というのを避けたいなと思っています」

47都道府県に一つあると、”少なくともあそこに行けば見れる”とアクセスのしやすさにもなる。

「Foraの探究を結果的に導入しなかったとしても、探究の一つの例として思ってもらえれば、その県の探究水準の向上につながるかもしれません。そういった波及効果もあれば嬉しいですね」

Foraの探究学習教材

もうひとつ、教科教育と探究学習、キャリア教育の連動についても考えている。

これはForaが設立以来考え続けていることだと、藤村さんは話します。

「Fora はずっと教育を人生に統合すると言ってきました。それは、教育内容が生徒の人生にとって、意味があること、言い換えれば、将来振り返って、大切なことは学校で学んだといえるような教育を目指したいという思いです。そのための教材開発を行いたいです」

キャリアについても同様です。

学び続ける意欲と能力を持って、マッチングではなく、ディベロップメントしていくのが良いのではないか、と考えます。

「キャリアはマッチングではなく、やりたいなと思ったら自分自身を高めていくキャリアディベロップメントが重要だと思っています」

藤村さんがそう話すのは、今まで高校生と関わる中で、マッチングによっていると感じているから。

「世の中のキャリア観が自分の内なるものと、社会の動向を知り、自分に合うものを見つける、そのマッチング率が高ければ高いほど良いという部分があると感じています。ただ、本当にキャリアはそれだけで良いのかと思うんです」

藤村さんは続けます。

「自分に向いている、向いていないかは分からないけれど、憧れや使命感を感じてしまう・・そういうものを達成しようというのもキャリアだと思うんです」

外の視点から高校生を見続けてきた藤村さん。その藤村さんだからこそ感じる信念のようなものなのかもしれません。


軸自体は変わらないが、質は変わってくる


Foraは探究学習の他に、大きく分けて2つの事業を行っています。

ひとつめがすでに述べたキャリアゼミ。
もうひとつが大学生向けのファシリテーション講座。
この三軸自体は変わらない。一方で、その中身の質的には変わっていくと藤村さんは話します。

「探究学習をやれば、そのままキャリア教育につながるかというと、そういうわけではなかったりします。文理選択のようなスクールイベントの際に、自分自身を振り返るのが大事。一方で振り返るためのフレームワークが必要だとは思うものの、それを教えてくれる教材がなかったりします」

進路に関しての考え方をまとめた教材のようなものが必要だと、藤村さん自身考えています。

「文理選択や進路選択がてきとうに決めてしまったり、そもそも進路と探究で時間を奪い合うことも多い。Foraに任せてもらえたら両方掛け合わせることができると提案できたらいいなって思っています」

Foraなりのキャリア教育観を示した教材について、2021年にはリリースをしたいと藤村さんは話します。

そして、それは進路を考える上でもつながってくる。

「キャリア教育については保護者が進学実績を求めたり、現実的に厳しいラインを戦っていることもあります。また、本当はやりたかったけれどできていないことなどもあったりします。いずれにしても、生徒の思考力を高めるに越したことはないので、進路を考えることを通してでも高められるといいなとも考えています」

もう一つがファシリテーション講座です。

「キャリアゼミをやっていてファシリテーターが大事となったように、探究学習をやっていてもファシリテーターが必要となります」

担い手の教育という位置付けだと藤村さんは話します。

「Foraは安心安全の場が大切だと言っているのですが、それを自分たちが大学生側に体現しています」

オンラインでのファシリテーション講座

今までは、大学生向けに「学問ファシリテーター養成講座」として運営されていたこの事業ですが、新しく「Fo-LAB」としてリニューアルしています。

「ファシリテーションは大学生にとってだけではなくて、教員にとっても、会社に勤める社会人にとっても、大事だと思っています。そう考えた際に、講座の形式も大事だけれど、何かある時に会えるとか、ナレッジを出し合えるとか。定例でお互いを報告しながらできると支えになるなって思っています」

それはムーブメントを一緒に作っていくイメージ。

「講座ではなくて、オンラインサロンのようなイメージで、高校生、社会人、学校教員含めて行いたいと考えています」

これからが勝負、そう話す藤村さんの顔は、真剣に教育の、学校の未来を見つめていました。


あとがき

Foraを「卒業」して、気がつくともう4年以上が経ちました。4年の歳月は、何かが変わるには十分な期間のようで、社会もすっかり変わってしまった気がします。(特にここ一年急激にですが)


僕が社会の波に揺られ、揺さぶられ、揺り動かされている間に、Foraはもっと沢山の出来事があったのだと思います。他人事のような書き方になってしまうのですが、その中には、困難なこともあったと思いますし、現在進行形でもあると思います。


一方で、大変で困難なこともきっとあった中で、高校生や先生、そして教育界全体に対して、何かを伝え、嬉しさや喜びも感じられた瞬間も沢山あるのかもしれない。きっとForaがいてくれたから、生まれた出会いも、得られた学びも、決められた進路も、叶えられた夢も、沢山あるはず。・・そんなことを、今回お話を聞いていて、勝手に感じていました。なんなら僕もその一人です。


高校生や先生はもちろん、僕たち卒業生にとっても大切な「場」になっているFora。そんなForaについて、これからも綴っていけると嬉しいなと思いました。

* * *

最後に、少しだけ僕からのお願いです。

Foraは今大きな挑戦に臨んでいます。

Foraはしっかり考えて、練って、動いていく、そんなメンバーが多いからこそ、今回のクラウドファンディングの挑戦は、とてもとても大きな大義を背負っているのではないかと感じています。

少しだけ、活動をのぞいていただけると嬉しいです。

*追記

クラウドファンディングはネクストゴールを達成し無事成功したようです!
応援ありがとうございます!

(クラウドファンディングのページに飛びます)