教育に関わる機関や団体、プロジェクトは沢山あります。

行政、学校、塾、NPO、企業、・・・
各々が、各々の立場から、掲げている目標に向かって活動をされていると思います。

一方で、それらの団体同士が、お互いに連携し合うことができればどうでしょう?
各々が強みを生かし、不足している点を補い合う。
その結果、生徒も、学校も、社会もより良い状態になっていく。

・・・そんな感じはしませんか?

今回お話を伺ったウィルドアは、このコーディネーターのような役割を担われています。
どのような想いで、どのような方法で、事業に臨まれているのか、共同代表の武口さん・竹田さんに伺いました。

(共同代表の武口さん)

(共同代表の竹田さん)

「第2創業期」

武口さんは団体の今をそう表されます。

武口さん:「僕らが活動を始めた頃に関わっていた高校生が、ついに今年の春で大学を卒業して社会人になっていったんですよね。事業的にも広がりが出てきたこともあって、自分たちの気持ちが切り替わるタイミングだと思っています」

このタイミングで、組織としても新しい形になっていくことが求められると考えているといいます。

武口さん:「僕らが何に対して責任を担っているのか、周りにももっと明確に伝えなくてはいけないし、自分たちでも自覚的になる必要があると思っています」

個々人にとって、良いものになっているか


現在、ウィルドアでは様々な事業を行っています。
ここでは代表的なもの4つを紹介します。

1つ目がマイプロジェクトの事務局。マイプロジェクトとは、活動テーマの中に”わたし”の思いや感情を見つけ、実行を通して学ぶ高校生の探究活動です。

認定NPO法人カタリバからの委託・協働の元、ウィルドアでは長野県・神奈川県・東京都の事務局として、関わる高校生たちが探究の中でより主体性を深めていくサポートをしているといいます。

2つ目はMakers University U-18。

NPO法人ETIC.からの委託の元、THINK BIG CAMPという5泊6日のキャンプの企画・運営を行っています。

このキャンプの参加者は「社会を変える」と決意した高校生が、運営側も参加者側も一緒に仲間として社会を変えていけるような場や仕組みをつくっていると話します。

3つ目はワンダリングチャレンジ。ワンダリングチャレンジとは、台湾発祥の楽しみながら自分のコンフォートゾーンを超えるチャレンジが行えるゲーミフィケーション型PBL(プロジェクトベースドラーニング)

まだ自身の興味関心を見つけられていない、学校の外に出ていくのが当たり前ではない、探究と言われてもよく分からない高校生たちが、コンフォートゾーンを飛び出していくことで面白さを見つけていくプログラムだといいます。

4つ目が、つい先日開始したというよこすかラボ。

武口さん:「横須賀で、企業研修という形式を取りながら、高校生が学ぶ環境を地域の中でつくっていくものです」

他にも依頼いただいた学校を対象にしたプログラムを行ったり、ウィルドアの周囲の人たちの高校生に何かを渡したい想いを形にするプロジェクトの検討もされています。


一口に高校生と言ってもターゲットやアプローチ方法は様々。ただ、その根底にはウィルドアが大切にしている想いがあります。

武口さん:「個々人にとって、良いものになっているかどうかを大切にしています」

それを考えるきっかけになった出来事がありました。
ウィルドアとして一番最初に行ったキャリア教育イベントに来てくれた高校生Tさん。

武口さん:「イベント中、4・5人の大人が話しかけに行ったんですけれど、2時間のプログラム中、『うん』と『はい』以外の言葉を一切話さなかったんです。楽しいのか、この場に意味を感じているのか、みんな不安に感じていて…」

2回目・3回目のイベントにも来てくれたものの、そこでも「うん」や「はい」しか言わなかったといいます。変わってきたのは4回目のイベントの頃からでした。

武口さん:「回を重ねるにつれて、少しずつ話すようになってきたんです。2・3年経つ頃には彼自身がイベントを立ち上げたいと言うようになっていました」

Tさんは工業科の高校に在籍していて、卒業後に就職をして横須賀の外に行ったといいます。ただ、その後も横須賀での活動を続けてくれました。

竹田さん:「毎週末横須賀に戻ってきてボランティア活動をして、ボランティアであればTさんと言われる存在にまでなったのです」

この高校生の変容がウィルドアで大切にしている考えに繋がります。

武口さん:「自分自身のことをうまく喋れない場合でも、内に秘めた何かの言葉みたいなものはあると思うんです。”自分にはこれができる”みたいな小さい成功体験とか、”自分はここにいて良い”みたいに思える環境があることで、誰しもが変容しうる可能性があるんじゃないかと信じさせてくれる出来事でした」

彼と深く対話していた竹田さんは話します。

竹田さん:「話すのって楽しいんだって彼は言うようになりました。元々Tさんは話せるようになりたかったんだと思います。彼自身、学校の友達と話してはいて、大人と話すことにそんなに慣れていない感じでした。大人が頑張り続けたのはあったけれど、変わりたいという見えない想いが元々強くあったのが大きいのかなと」

そのような中で大人ができることは、練習の場をつくることだと話します。

竹田さん:「彼らが練習できるタイミングをつくれたのが大きいと思います。話せるようになりたいと思っていても、機会がないと話せるようにならないなって」

だから、ウィルドアは高校生に対する信頼を強く持っている団体だといいます。

竹田さん:「自分の在りたい姿が一人ひとりの中に内包していて、言葉や形になってしないかもしれないし、いつ形になるかも分からないけれど、ある。それを形にする力もそれぞれがちゃんと持っている」

これは、仲間になっていきたいというメッセージにもつながってきます。

竹田さん:「ある意味で僕らも高校生も本質的には、対等な存在だと思っています。一緒に社会をつくっていく仲間になっていこうというのが持っているメッセージです」

同じ合唱部で

共同代表で運営をされているウィルドア。

武口さんと竹田さんの出会いは高校の部活にありました。

武口さん:「学年は6つ違うのですが、同じ高校出身の同じ合唱部でした」

OBOG活動が盛んな部活で、OBOG会が定期的にあったといいます。

武口さん:「その帰り道、みなとみらいを歩いている中で、キャリア教育に関して考えていることが似ているなと思ったんです」

タイミングも丁度よかった。

武口さん:「ちょうど僕も会社に勤めながらNPO活動を始めたタイミングで、竹田も学習塾でアルバイトしながら夢指導みたいなものに関わっていたタイミングでした。キャリア教育の観点で話が合ったんです。こういうの必要だよねと」

その後、お二人が最初に企画したイベントは、高校のOBOGを招いてのBBQ大会でした。
ただ、それはよくあるBBQとは一味異なっていました。10世代もの学年を繋いで行ったといいます。

武口さん:「BBQみたいな形であれば、あまり格式貼らずにフラット話すことができるんじゃないかなって。お互い知っている上下三世代ずつを集めたら結構な世代が集まって、これもキャリア教育になるんじゃないかと」

そうしたイベントをしていくうちに、より話す関係になっていったといいます。ただ、具体的な今のウィルドアにつながる活動をしていたわけではありませんでした。そのような中で、お二人がより深く関わるきっかけになった出来事がありました。

武口さん:「竹田が所属していた慶應の牛島研究室でアドバイザーを行うことになったんです」

牛島研究室は、学生がそれぞれ何かのプロジェクトに入り活動の中で学んでいくゼミ。竹田さんはその中で新しく、地域×キャリア教育分野のプロジェクトを立ち上げたのですが、その立ち上げにあたりアドバイザー人が1人必要という条件を、教授から受けたのです。

武口さん:「僕がこの時期NPOの理事を務めていたこともあり、竹田からアドバイザーやってみないか?という話の打診をもらったんです」

こうして武口さんは活動のアドバイザーという形で関わっていくことに。

これがウィルドアの活動の元になっていきました。

コーディネーター的な立ち位置で


ウィルドアの活動を行うにあたり、お二人はどのような立ち位置で、キャリア教育に関わっていくか考えます。

武口さん:「その当時からキャリア教育団体は無数にあって、いろいろな機会を学校に届けようとしている人たちは世の中にすでにたくさんいました」

その状況を踏まえ考えた立ち位置が、コーディネーターでした。

武口さん:「それぞれの活動が教育の機会を欲している人たちに届いているかといえば、必ずしもそうではないのかなと。そうであれば必要になるのはコーディネーター的な、中間に入り、交通整理をしていくような役目なのではないかという話をしていました」

一方で、その中間支援的な立ち位置になっていくにあたって、信頼と実績が必要だと考えます。

武口さん:「ぽっと出の団体がそういう中間支援団体的な立ち位置になれるとは思えない。まず中間支援になれるだけの信頼と実績を積み重ねていく必要があるなと」

そうして団体としての立ち位置の方向性が固まっていきます。

武口さん:「立ち上げから5年間は自分たちの名前で売っていくコンテンツはつくらずに、いろいろな教育界隈の『これをしたい』と思っている人たちをサポートしていき、それを実現させていく団体の位置にいようと。それをやっている人たちはいないのではないかと思って」

それは名前の由来にもつながっています。

武口さん:「意思はたくさんあるものの、それがつながるためのドアがどこにあるのかわからない。だから、それらのドアをつないでいく存在になっていきたいと考えています」

横須賀で事業をつくりたい


2021年4月、ウィルドアは、よこすかラボという新たな取り組みを始めました。元々ウィルドアと横須賀の歴史は長く、様々な活動を重ねられています。

竹田さん:「気づけば横須賀で200?300人近くの高校生と個別で関わってきて、すごく良い出会いは届けられたなと思っています」

一方で、まだできていないと考えることもあったといいます。

竹田さん:「在りたい姿に向かうチャレンジを高校3年間で応援できたなと思う人たちと、応援できていなかったなと思う人たちがいました」

たくさんの高校生と関わる中で、どうしてもやり切れていないもどかしさがあったのです。

竹田さん:「そういった高校生がいたというのは感じていました。ただ、もっとこんな機会があれば面白くなったかもしれないのになとか、こんな機会があればモヤモヤしたものが洗われてもっと変われるのになとか思った子はいっぱいいたはず。そこにやり切れていないもどかしさがあったんです」

竹田さんは、その状態に自分がなれていない要因を考えます。

竹田さん:「その一つは、仕事になっていないことでした。ボランティアの限界で、想いだけで週末だけで使う平日の夜だけ使うとかを一人でやると限界があるなと思っていました」

そこで考えたのが、横須賀で事業をつくることでした。

竹田さん:「だから横須賀で事業をつくりたいなと思ったんです。なんなら、その横須賀の事業を専門にする人が必要だなって。もっと横須賀と横須賀の子たちが面白くなっていくにはどうすればよいだろうと思った時に、どうしたら横須賀で専門の人が置けるぐらいの事業が作れるんだろうなと2年前ぐらいから考え始めました」

竹田さん自身、事業を考えられる経験値と土地感がようやくできてきたのもあったといいます。


加えて、社会の流れも後押しになりました。

竹田さん:「そんな時に高校で探究が始まって、全てのパズルがハマった感覚がありました。今まで僕らの活動が価値を感じられなかった理由って、やっぱり純粋に高校にとって、価値を感じるロジックがなかったからだと思って」

高校で行われていた「総合的な学習の時間」は、2022年度から「総合的な探究の時間」に変更されます。現在多くの高校で、探究の時間を取り入れる動きが起きているのです。

社会の流れは他にもあります。

竹田さん:「高卒市場の高まりもあります。若者が減ってきて、企業の人材難が起きてきている。企業側もいい人材が欲しくて、人材発掘を行うニーズが高まっている感じがします。また、SDGsという文脈の名の下に、企業がお金を出し始めたりとか高校生を応援するというのがいろいろな人の価値になり、はまっていく感覚があり、これは今攻める時だなと」

結果、このタイミングで、よこすかラボという名前で事業を行っていくことに決めたのです。

竹田さん:「企業のメリットにもなって、これからの最先端をいく、探究学習をサポートする土壌づくりにもなるコンテンツ。だからこそ仕事として持続的に回る。横須賀という40万もの人がいる地域だからこそできる形ではないかと思っています」

事業としてできるからこそ、双方にメリットがあり、良い環境になる。

竹田さん:「高校生が横須賀を舞台に好きかって楽しめるようなチャレンジができる環境をつくりたいです」

初回のラボは、横須賀の企業研修として、高校生・大学生を巻き込んだプログラムを行っている。思ったより、地域・行政の共感値の高さがあり、驚いている現状だといいます。

竹田さん:「高校もすごく前向きで、その手応えを感じるとともに、かなり属人的事業フレームワークでもあります。できる人を育む時間が足りない、体が足りないみたいな感じになる未来がみえている。誰か一緒にできる仲間を作らなければいけないなと」

竹田さんは、そう話します。

ウィルドアを好きだといってくれる人に


様々に展開している事業。それを支え、実現していく組織のことを伺いました。

武口さん:「特に必要だなと思うのは営業・バックオフィスの部隊です。いろいろな人と関わっている一方で、内部に巻き込んでいくのはそこまでうまくなかったりして…関わってくれる人は多いものの単発みたいな感じが多いんです。だからこそ、持続的にかかわれる体制面の整備をしていきたいです」

加えて、やっていきたいと話す大事なこともあります。

ウィルドアを好きだといってくれる人に対してのアプローチです。

武口さん:「ウィルドアのコミュニティが好きでいてくれる人が、周りに沢山いてくれています。それこそがぼくらのパワーの源なんです」

引き続きコミュニティとして大事にしてきたものを大事にし続けたいと話します。

武口さん:「力になりたいと思ってくれている人たちがくれるものをパワーに変えていくだけのエンジン部分をつくっていくのが組織の課題です。今はガソリンだけで、これからは燃えられる仕組みが必要だと思っています」

この根底にあるのは、週末に関わってくれる社会人の観点がありがたい存在たからでもあります。

武口さん:「僕や竹田は、状況として現場からしか学べないことが多いので、そこに対して、学術的にいえばどこに紐づくとか、一般的な会社では、こうやっているのが当たり前とか、レビューを入れてくれたり、新しい知見をくれる仲間がいてくれます。そこの知識や観点、竹田がフロントに出て抱えて帰ってくる問題意識がちゃんとぶつかり合って、整理されていく。そのフローが回っていると感じます」

時間の流れも丁度良いタイミングになりつつある。

武口さん:「創設から関わってくれるメンバーが社会人5年目とかになって力をつけてきたとも感じています。事業として一緒にゴリゴリ推進していける仲間が必要だし欲しい一方で、普通の人たちが普通に関われる範囲で、力になってもらえるようにするのが大事だなと思っています」

あとがき

ウィルドアの武口さん、竹田さんにお会いしたのは、大学生の頃でした。
当時、教育団体で活動していた際に、とてもお世話になりました。

様々な教育団体をつないで、よりよい教育の機会を届けていく。そのような姿を、今回のお話でも改めて感じさせていただきました。

近い将来、何らかの形で一緒に活動ができるように、僕も日々できることに臨んでいこう、そう勇気をもらいました。